【文/Discover Taipei】
2013年に建築界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を受賞した日本を代表する建築家の伊東豊雄。周囲の自然や環境との調和を重視し、高度な建築技術を要する有機的なデザインにこだわっていることから、「普遍的な建造物の作り手」と評価されています。ここ数年、伊東がデザインを手がけた台北市にある建築からも、その特色がうかがえます。
チャレンジ精神旺盛な伊東は、「建築は車と違って独特の性質を持っています。例えば同じ種類の樹木でも育った場所によって、姿形が変わってきます。だから建築家が建物をデザインする際は、単に同じ図面を引くのではなく、それぞれの都市らしさがその建築に表れていなければならないんです」と語っています。
また、スケールが壮大で目を引く外観の建築は、すでに過去のものとなったと語る伊東。「人が建物に足を踏み入れられたら、そこには心地よさと面白さがあるだけではなく、建物自体が自由に呼吸できていなければなりません。そして訪れた人にまた来たいと思わせることが、これからの建築にあるべき姿なのです」
伊東豊雄の作品は世界各地にありますが、台湾も例外ではありません。高雄ワールドゲームズメインスタジアム、台中メトロポリタンオペラハウス、そして昨年竣工した国立台湾大学社会科学部新校舎、台北文創大樓(ビル)も伊東がデザインを手がけています。
国立台湾大学社会科学部の新校舎をデザインする際、伊東は「人と人の交流を促進するのが建築」と考え、大通りに面する部分も含め、校舎のまわりに囲いを設けませんでした。それで市民は道路を渡ったらすぐに校舎の廊下に入れ、学術的な雰囲気を味わえるようになっています。また、開放感を出すために校舎には大きなテラスも設けられ、授業や勉強の際に学生が風の動きを感じ取れるようになっています。社会科学部新館付属の辜振甫記念図書館は、88本の白いコンクリートの柱が三方のガラス張りの窓に包まれ、屋根と窓から白い柱に日差しが当たり、まるで木の葉の隙間から日差しが降り注ぐ森林を歩いているかのようです。ここは教員と学生に人気のくつろぎの場になっています。
また、台北文創大樓は松山文創園區(松山クリエイティブパーク)に新たに完成した建物です。伊東はデザインの際に新ビルをいかに市の指定文化財に指定されている旧・松山たばこ工場などの建物に溶け込ませるかを考え、新旧の景観の調和が取れるようにしました。ビルを棚田のように階段状にして上の階が後ろに引っ込むようにして、ビルがもたらす圧迫感をなくしたのです。また、建物の前には半円弧状の広場を設け、広々とした公共スペースを誰もが自由に利用できるようにしています。
さらに伊東は、台北文創大樓をデザインする際に、付近に完成予定の台北文化體育園區(台北文化体育パーク)と松山文創園區との兼ね合いと周辺の環境との調和も考慮しました。「台北ドーム(台北大巨蛋)が丸いのに対して、(松山文創園區にある)旧・松山たばこ工場もソフトな一面を持っています。それでビルをデザインするに当たっては、硬い直線は排除し、柔らかい曲線で全体をまとめて、このビルに詰め込まれた多元文化の象徴にしました。モール、展示・公演スペース、劇場など、現代社会に必要な空間が共存し、柔軟で無限の可能性を秘めています」
台湾の多くの建築案件に関わり、台湾で台湾人の生活スタイルを観察してきた伊東。特に新旧の建物が共存する歴史ある街の新たな姿が気に入っているといいます。歩いて台北に触れ、街角の多面性を持つ店舗にみなぎる創造力を感じています。夜市で人とすれ違ったり、楽しそうな話し声を聞いたり、テーブルを囲んで食事をしたりして、身近でその温かさに触れているのです。
「台北にあふれる生命力と人々の創造力は日本よりはるかに勝っています。このふたつが、私が台北をいちばん気に入っている理由です」
伊東豊雄経歴
・伊東豊雄建築設計事務所代表
・2002年 「せんだいメディアテーク」でヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞受賞
・2005年 高雄ワールドゲームズメインスタジアム、台中メトロポリタンオペラハウスのコンペで最優秀賞受賞
・2006年 「風の塔」でイギリス王立英国建築家協会ロイヤル・ゴールドメダル受賞
・2013年 プリツカー賞受賞
・2013年 国立台湾大学社会科学部新校舎、台北文創大樓を設計
※英文版:
‧"Creator of Timeless Buildings" - Toyo Ito's Ongoing Dialogue With Taipei
【Discover Taipei 2014年03月號】
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